第11回「みんなの老年学研究会」開催のご報告です。
今回のテーマは、10回に引き続き「高齢者の就労」でした。
まさに就活中の方や高齢者の就労支援に関わる方など、様々な立場からの意見があり、
お互いの視点を知ることができました。
今回は、新メンバーも加わり、総勢16名(柴田先生+参加者15名)の、熱気のある会になりましたこと、御礼申し上げます。
ここ数回、続々と新メンバーにご参加いただいていることもあり、
改めまして簡単に自己紹介と研究会の感想などを
シェアさせていただければと思います。
参加者の感想
★心に残った言葉「継続」「掘り起こし」
参加していただいたみなさんのそれぞれの立場や経験、知見から興味深いご意見を伺うことができ、刺激を受けました。
中でも、心に残ったのは「継続」と「掘り起こし」です。
高齢期の備えとしてはもちろん、フリーランスとして働くいま現在にも、この2つはとても重要なキーワードだと改めて。
テーマ「高齢者の就労」に関する深堀ポイントを考える
①「生活困窮者自立支援法」の相談窓口における、高齢者の求職の背景と実態
桜美林大学大学院老年学研究科の卒業生で、「品川区暮らし・しごと応援センター」の窓口で相談者の対応をなさってこられた森本真知子さんより、話題提供がありました。このセンターは平成7年4月に生活困窮者自立支援法が施行されたのを受けて発足された65歳以下の相談窓口にもかかわらず、多くの65歳以上の方も仕事を探して来所するそうで、様々な仕事を求める背景について、現実密着型のレポートがありました。
- 「こんなに長く生きるとは思わなかったから、貯金が減り、年金も少ないし働かないとー」
- 「年金はあっても、もう大人になった息子がニートや引きこもりなので働かないとー」
- 「自営業のお店が成り立たなくなり、たたんだので他で働かないとー」
- 「親が特養に入れないので、高い他の施設の費用を払うには働かないとー」
等々、切実な事情からいくつになっても働かなければならない人が少なくないことを話され、この窓口から高齢者向け無料就職相談所に繋いだり、ネットで仕事探しのお手伝いをしたりしていることを伝えてくださいました。
②私たちは、高齢者の就労動機の実態をどこまで知っているのだろうか?
どこにその実態を知るデータがあるのだろうか?
この日の参加者の中には、希望退職した上乗せ退職金や、ライフプランに基づいた老後資金を確保したうえで、次の仕事を求める方などの再就職先をマッチングしている公益財団法人の方もおり、就労動機の切実さがあきらかに違うという感想もありました。
また、中高年の女性たちに向けた上手な生き方をテーマにシンクタンクの活動をしている方からは、この活動に参加する65歳以上の女性たちは、お金のために働くというより、自分らしさの追求で時間を使い、その結果趣味の作品が売れたりすればさらに人生が充実するが、最近は50代ぐらいの女性の中には収入に結び付く活動が必要になっている方も増えてきているといお話があり、一見、富裕層であっても、時代とともに経済事情がじわじわと違ってきていることも実感させられました。
これらのお話だけでも、高齢者の就労と一口に言ってもその動機も背景も実に幅が広く、困窮のために働きたい群と、より自分らしい生き方のために働きたい群と、定年してもまだ引退は早いので仕事を探している群と、その他さまざまな理由の群と、どの群にどれくらいの求職人口がいるのか正しく知ることがまず私たちが突き当った初めの課題、宿題であることを確認しました。
また、それぞれの群に見合うような仕事の求人が群の種類だけ実際にあり、マッチングできるのか。なければ仕事のありそうなフィールドにうまく人をマネージングできるのか。さらに、仕事を作り出す(プロデュース)することはできないか。
これからの高齢者の就労支援には、「マッチング」「マネージング」「プロデュース」という3つのキーワードがあり、それぞれの課題別に好事例などを把握しながら広める取り組みが必要なのではないか、という一つの結論も出た研究会となりました。
③ 就労(プロダクティビティ)のためのスキル向上も含めて、
『生涯発達』のカギは、❝継続❞である。
最後の柴田先生の老年学的まとめには、参加者全員が深く納得!
もう一つのこの日の話題は、高齢になっても働き続けるには、能力維持をどうするのか。そもそも能力維持がずっとできるのか、というテーマでした。
「60代後半、70代、80代となれば、若い人と競争はできない」というのも事実でありながら、女子大で英文学の先生を長く勤め、70代の今、小学校で英語指導の補助をしている方から、「おばあちゃんだからいいこともたくさんある」というお話をしてくれました。英語ができるできないより、学校生活で人間性を養うという面では、現役で時間的、精神的に余裕なく100%で働かなければならない先生より、おばあちゃんの出番。生徒のほうも面白がって、甘えながら楽しく頑張ってくれるとか。
この話を受けて出たのが、「仕事のスキルや稼ぐスキルって、高齢になるほど“生きる力” や“器用さ”がものをいうと思う」、という発言です。 「ずっと主婦できて、特別なスキルはないといえばないけれど、
器用に着物のリフォームを始めて、仕事にしている人もいます」。たしかに。そこへいくと、男性は生き方そのものが不器用ですよね。
ところで、老年学的に高齢者のスキル向上の問題をみれば・・・。
「生涯発達」における人格ではなく、スキルの部分に注目したバルテスの理論になります。
柴田先生からこの理論の解説がありました、IT技術やテクニカルといった「結晶性知能」だけでは、その人の仕事能力は測れず、一見技術だけにみえる仕事でさえも、「歳をとっても落ちない言語性知能」が陰で大きく働いている。以前、若いタイピストと高齢のタイピストはどちらが速くタイプできるかという実証をしたところ、予想は、やはり指の動きがだんだん鈍くなるので、若い方にはかなわないというもの。ところが、高齢者のほうが次にくる単語の予測能力が高いので、完全ブラインド打ちができなくなっても、
若い人にも劣らないという結果だったそうです。初めから、かなわないと思うか。その分何処でカバーできるか、己を知り、持てる能力を最大限にうまく使う知恵があるか。それがスキル高低の分かれ目であることを再確認させられました。
そして最後に柴田先生の「生涯発達」理論が登場! 先生は長年スーパー老人といえるような、年齢をかさねても高い実力とますます魅力的な仕事ぶりを示す方々を取材し、本にしていらっしゃいます。2016年には世界最高齢、当時95歳の現役ピアニスト、室井摩耶子先生を取材し、生涯発達を続けていらっしゃる方々の秘密を解明しました。 さて、その秘密とは? 何だと思いますか?
「継続です」。「新しいことにチャレンジしないと脳が鈍くなる、みたいな話がよくあるが、そうじゃない。生涯一つのことを継続し続ける挑戦。日々、“熟達”を目指す挑戦にこそ、生涯発達のカギがある」。「室井さんは毎日同じ音譜を弾いても、常に新しいものを発見している」と。
迷わない。揺らがない。そんなスピリットが腹に座ったとき、人生は深みも、高みも増すということを教わった日でありました。
(文責 発起人・萩原真由美)